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【北海道バイク旅 vol.3】 衝撃の出会いと新たな旅のスタート by BON
2025.07.09▶前回の記事はこちら
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束の間の安らぎ
三日目の早朝。
前夜に調べ尽くした結果、稚内に向かい点検してもらえるのか、確実な方向で旭川へ向かうのかの二択。
どちらにしても逆算して動くにはまだ早すぎる時間だ。
上陸して必ずやりたかった事のひとつである「朝珈琲をエアロプレスで淹れてヒトトキを贅沢に過ごす」ことに。
珈琲を飲みながら手持ちの工具でハンドルの調整。絞れている2つの可能性を自分が出来る限り、ケーブル類に負担がかからない位置を見出し、ボルトを締め付けて再びヒューズを交換。エンジン始動し、少しハンドルを動かしてみる。ショート無しだ。
「よし!行こう」そう決断し、100キロメートル先の稚内を目指してみる。
どこに向かうにしろ、受け入れ先の営業時間は9時以降。どこへ向かうにしろだいたい二時間前後は走るのだから、可能性に懸けてみる事にした。
僅かな調整が功を奏したかの様に、ここからはショートする事なく順調に、景色も楽しみながら走行でき、稚内まで無事に辿り着く事ができた。
何も異常なく走行出来るって本当に気持ち良すぎる。
急ぐ事も無くのんびりと自分のペースで走る。
コレぞまさに北海道ツーリングなのかと...思っていたのも束の間となってしまった...。
稚内に到着して最初の休憩で好調をキープしていたが、休憩後にバイクに跨り「最北端を目指せるのかぁ」と、胸が熱くなった瞬間だった。
再びショートし、灯火類全消。
一瞬頭が真っ白になったが、既に9時はまわっていた。
先ずは従姉妹からの情報で二店舗に電話をかけて、点検・修理が可能かを確認したところ
、どちらも今はやっていないとの回答。
残るヒューズは手持ちであと二つ。
コレが無くなればゲームオーバーだ。
リセットすら効かない現実を思い知ったが、あと二つあるのだからまだ先には進める。
動画をいくつか見ていた記憶で、購入店ではないがレッドバロンがある事を思い出した。
ココはライダー達の宿泊施設謙整備出来るスペースがあるらしい。
…あるらしいだけで向かったのだけど、オープンまでまだ時間が余っていたため、再びメーカーのディーラーを検索して、可能性に賭けて一本電話を入れる事にした。
「うちは修理屋だから、いらしてください。」
この一言で行き先を急遽変更した。
衝撃の出会いと旅の再開
"土井二輪商会"
SUZUKIの取り扱いもある事は、電話してはじめてわかった。
向かう先は約180km先の名寄。
ここからは本当に精神的にギリギリだった。
まずはヒューズが残り二つなので、無くなればゲームオーバー。
何故かと言うと、保険でのレッカーの一次搬送には金額にも余裕があり、旭川や札幌も搬送可能だが、レッカー先が滞在中に修理出来なければ、二次搬送不可なうえ旅は断念する事が決まる。
慎重に運転しようが、もうそれはいつ起こるかはわからない。
それでも180kmを無心で走り続けた。
気付けばと言う言葉が間違いなく正しいのだが…
走り抜いた結果、ヒューズをひとつ残して名寄の土井二輪商会に辿り着く事が出来た。
土井二輪商会は、今回の旅の二度目のスタートとなる。
到着は確かPM12:45だったと記憶している。
店主であろう方が「13時からになるから、もう少し待ってね」と。
なんかホッとする様な口調に感じたのは、北海道に着いてここまでずっと不安を持ちながら、ようやくプロの整備士の所に辿り着けたからなのかもしれない。
しばらくして、道路を挟んだ反対側から自分と歳が近そうな方が歩いてお店に登場。
店主とはまた雰囲気が違うが、穏やかで物静かそうな印象。
取り急ぎ荷物をバイクから下ろして、症状を細かく伝え、ヒューズを変えてどんなタイミングでショートするかをチェックしていただいた。
と、その前に整備をしてくれる土井さん(後に店主の息子さんだと知る)から「どれくらいかかるかわかりませんが、時間は大丈夫ですか?」と問われ「直るまで待ちます」と返答。
夜中になる可能性もあると聞き、「とにかく直らなければ旅が続けられない事」と
「自分も適度には手伝える事」を伝え、改めて修理を依頼した。
チェッカーを使って電流を見たり、配線をひとつずつ目視でも丁寧に確認しながら、確実に、ひとつひとつ潰していってくれた。
ショートしている箇所は自分でも気にしていた場所だった。
素早く発見して頂き、開始からあっという間に「多分コレなので直りますよ」と。
北海道までに準備してきて、出発前にも購入店で同じ症状を伝えて、点検も簡易でしてもらってたのだが「コレはなかなか見つけ難いですよ」と。
しかしながらこうなる要因は明確だと教えてくれた。
整備と修理内容、その原因は割愛します。
修理を進めてもらっている間、土井さんと話す中で、自分が今回の北海道ツーリングで大切にしているテーマのひとつが「DANG SHADESというアイウェアブランドとの関わり」だということを伝えた。
旅の間もDANGのアイテムを身に着けて過ごし、記録を残している。その話をしたところ、土井さんが「DANGって見たことありますよ」と反応してくれた。
そこから会話が深まり、この旅1番の衝撃が走った。
なんと、土井さんの正体は現役のプロスノーボーダー"土井 隼人"だったのだ。
そこからはお互いの繋がりがピストンし合い、リンクしていく。
会話をしながら自分は胸が震えて目頭が熱くなり、気付けば涙が止まらなくなった。
まず「バイクは直る事で旅が続けられる確信を得た事」、そして、過去自分もスノーボーダーとして活動し、今現在に至るまでの仲間との深い繋がりが今、北海道という地でこうして繋がった現実。
土井さんから出た言葉の重み。
「自分達は旅人に旅を続けてもらいたい」、「引き寄せましたね」この言葉に更に涙が溢れてしまい、恥ずかしさから一旦ピットを離れて一人でありったけの涙を流した。
この時まで「土井二輪商会」という会社名は全く頭に入っていなかったが、ピットから離れ「土井二輪商会」の看板を見上げたとき、ようやく現実を受け止める事ができた。
土井二輪商会を離れるまでの話は尽きないのでここまでにしましょう
さて、再スタートできる喜びでテンションMAX。
パニアケース、ロールバックを積み込み、感謝を精一杯伝えて準備は完了。
隼人君が写真を撮ってくれました。
またいつか会いましょう。
記憶は定かではないがそんなニュアンスで、名刺代わりの【SHARK BOY】を頂き、直ぐに旅の証としてパニアケースに貼り付けた。
土井 隼人 (どい はやと)氏について
1982年、北海道名寄市生まれ。Shark Boy。2000年コアゲームス・クウォーターパイプ3位などの実績を残し、現在は地元の名寄市を中心に、北海道各地の極上の雪でフリーライディング。「カー団地」シリーズでもお馴染み。
安全な旅路を祈って
土井二輪販売を出発する前にルートを確認。
隼人君に聞いたルートで、一旦紋別を目指す事に。
本来であれば、この日は斜里まで走る予定だったが、バイクの修理で約二時間(とはいえ直す事が最善)。
名寄に留まる事も覚悟していた上、思っていた以上に手際良く作業を進めてくれたおかげで、巻き返しとはいかないが充分ゆとりのある移動が出来た。
名寄からの移動中は興部と名の付く集落を抜けるのだが、そこでは素晴らしい光景を目にした。
各集落ごとに交通安全みたいな旗を持ち、町民達が道路脇で旗を振っているのだ。
最初に目にした場所は確か30年間だったかな、死亡事故ゼロと記されていた
この旗振りの事を少し調べてみたら、無積雪時に"旗の波"として老若男女みんなでこの運動を実施しているとのこと。素晴らしい光景でした。
この日、紋別に向かうには17時到着が目標。
しかし、この運動を見たお陰で無理に急ぐことはしたくなくなり、急遽2つほどのキャンプ場に連絡を入れた。
ひとつは既に受付とチェックインが不可。もうひとつのキャンプ場は、事情を伝えたところ「フリーでご利用ください」と、温かく迎えてくれる事となった。
はじめての廃電車泊
予定のキャンプ場を目前に休憩がてら興部の道の駅に寄った。
ここで目にしたこの車両に見覚えがあった。
気になって覗きに行くと、車両横のベンチに座る一見地元の人かと思える風貌の年配男性に「あなた、今日ここに泊まるのかい?」と聞かれ「ここ、泊まれるんですか?」と聞き返した。
それから年配男性のトークが炸裂し、新たな出会いとなる事に。
「今日はあなた含めて4人やなぁ」と、既に確定されたかの様に会話が続き、これまでの経緯を簡単に話した。
「アンタは床で寝てな。冗談やけど」と、笑い混じりで迎えてくれた。
ひとまず、近くにセコマがあったのを確認し、もう今日は興部の道の駅に決めようと決意。何よりも欲していたビールを沢山買い、既にお気に入りとなったセコマのパスタをつまみに、人生の先輩達と楽しい会話をしながらベンチで思う存分楽しんだ。
・・・ということで、この日はキャンプではなく廃電車泊することに。
受付さえ済ませれば無料で泊まれるのだが、中は畳が敷いてあり、電気も電源もある。
雨、風しのげるだけではなく、至れり尽くせりのありがたい設備。
とにかく雨が降ったり止んだりだったので、荷物は中に運び込み、シュラフと枕で寝床をこしらえた。
そして、歩ける距離には昔懐かしい銭湯もあり、ビール片手に散歩がてら銭湯なんて最高過ぎた。
ひとっ風呂浴びた後は電車へ戻り、再び年配の方々と会話。
この時点でファンキーなお父さんは横になり眠っていた。
自分もこの日は本当にクタクタになり、小樽ビールを飲み切らないまま気絶するかのように眠りについた。
宿泊施設情報
道の駅おこっぺ ルゴーサエクスプレス
開設期間:毎年5月から10月頃まで
住所:〒098-1614 北海道紋別郡興部町字興部幸町
電話番号:0158-82-2385
ライタープロフィール
名前:赤木 "BON" 一聡
DANGサポートフォトグラファー。
INSTA:@hvtbon